第3回日本ダンス研究会 開催報告
はじめに
2023年11月4日(土)に、東京大学駒場キャンパス 21KOMCEE Westにて第3回日本ダンス研究会を開催した。51名が現地参加し、様々な分野の発表を行い、 活発に議論した。
発表および議論
以下のような発表枠を用意し、議論を行った。 一般発表8件、ポスター発表4件、勉強会1件の発表があった。
一般発表:発表10分+質疑4分
勉強会:120分
勉強会では、土田修平氏によるYOLOv7を活用したダンス映像制作に関する勉強会が実施された。YOLOv7の基本的な使い方から、Processingへの応用に至るまで説明いただいた。
一般発表セッションでは、様々な研究が発表され、Scrapboxを活用して幅広い議論が行われた。守山和夏(早稲田大学)は「AI Choreographerを活用した新たな身体表現の検討」を通じて、AIがダンスの創造性に与える影響を探った。井上凜(関西学院大学)らは、ダンス初心者が未経験ジャンルのダンスを楽しむためのWebシステム開発について紹介した。箱田崚(東京大学)らの研究では、バレエ動作を筋骨格シミュレーションを用いて再現する技術が発表され、廣澤聖士(桐蔭横浜大学)らはフィギュアスケートのジャンプの質を専門家の視線配置を分析するモデルで判定した。
夏目幸奈(NTTコミュニケーション科学基礎研究所)らは、ダンサーの感情がダンス動作に与える影響に焦点を当てた分析を実施していた。初田響子(神戸大学)らは、ラテンダンスの熟達者における動きの巧みさとキューバンモーションの一貫性の関係を探った。大野俊尚(早稲田大学)らの研究では、バスケパフォーマンスにおける「ボールを使わない時間」が観客の評価に与える影響を分析した。最後に、伊丸岡俊秀(金沢工業大学)らの研究は、日本舞踊の評価基準と経験者と素人の違いを明らかにした。
ポスター発表セッションでは、対面での交流が活発な議論を促進した。参加者は、研究成果をポスター形式で展示し、それについての質問や意見交換が行われた。デバイスのデモを披露する場面も見られた。
今回は、フロアディスカッションというスタイルのパネルディスカッションが導入され、参加者も積極的に議論に参加しました。テーマは多岐にわたり、研究者がダンサーへ貢献する方法、ウェルビーイングにおけるダンスの役割、AIを活用した表現の創造性、マイノリティにおけるダンス、伝統芸能の保存と活用に至るまで、幅広く議論された。これらの議論は、今後のダンス研究にとって重要な意見交換の場となった。
情報交換会には、総勢17名の参加者が集まった。研究に関するトピックからコミュニティの将来についての話題に至るまで、充実した内容の議論が展開された。
おわりに
対面での議論を通して、参加者の皆様から貴重なご意見やご感想をいただくことができ、有意義な会合となった。また、今回の開催を通じて、参加者の皆さまと新たな知見を共有し合うことができ、研究会の活動をさらに深めることができた。
謝辞
参加していただいた皆様、ご参加いただきありがとうございました。また、運営のサポートに入っていただいた初田響子様(神戸大学)、銭谷真緒様(お茶の水女子大学)、ご協力ありがとうございました。
来年度も日本ダンス研究会を開催する予定です。下記のWebページにて随時情報を更新しています。多くの方のご参加をお待ちしております。
実行委員
実行委員長:河野 由(国立スポーツ科学センター)
ローカル・配信:宮田紘平(東京大学)
動画・音声編集:中村まい(お茶の水女子大学)
Google Form/CFP:清水大地(神戸大学)
Web:土田修平(お茶の水女子大学)
開催情報
開催日時:
2023年11月4日(土) 10:00-17:15
主催者:
日本ダンス研究会 実行委員会
参加者の属性:
学生 33%、研究者 24%、ダンサー・ダンス関係者 19%、その他(企業の方など) 24%
参加者の専門分野一覧:
認知科学、心理学、舞踊と民族の関係性、自閉スペクトラム症の運動学習(博士課程で全身運動の模倣障害の研究予定)、音楽情報科学研究、バイオメカニクス、インプロビゼーションダンス、フィギュアスケート、スポーツデータサイエンス、情報学・組込み技術、神経科学、HCI、情報科学、ダンスサイエンス、強化学習、シミュレーション、熟達、運動協調、ラテンダンス、社交ダンスの運動学、スポーツ科学、デザイン、メディア情報処理、パフォーミングアーツの留学レベルパフォーマー養成、ケア、ソフトウエア開発、スウィングダンス、コミュニケーション研究、認知語用論、社会心理学、福祉、介護、健脚トレーニングとしてのバレエ、心身全体の協調した使い方、ダンス教育、ダンサーのキャリア形成、Cultural Finance、マイノリティアート、競技ダンスのAIによるレッスンシステム構築、Leading and following in the Lindyhop、音楽、心身、ソーシャルダンス経験者が他のソーシャルダンス移行の際にハードル低くスキルを高められる方法と各ソーシャルダンスにおける共通点の抽出、ラテンダンス、モダンダンス、体育科教育学、人の体質・地域性のダンスの文化的・身体的関連や発展の歴史、ダンス医科学、ヒューマンコンピュータインタラクション、文化人類学、アート✕映像✕ダンス、日本舞踊
フロアディスカッションで寄せられた問い:
- <テーマ①> 10年後の社会を見据えて、今・今後どのようなダンス研究を行う必要があると思いますか?
- 多くの人がダンスに気軽に関わることができる仕組み
- ダンスを鑑賞している時、実施している時の脳活動から審美評価やダンスの学習との関連を明らかにする研究
- ビジネスも包含したウェルビーイングに連関させたもの
- 芸術家と科学との融合を分野を問わず幅広く行っていくと良いと思います。
- ダンサーさんやダンスを習う人に直接役立つ研究
- ダンスとビジネスの関わり方
- ようやく3Dの運動データが比較的気軽に収集できるようになってきたので、世界中のダンスを収集・保存し、体系的に管理する事が必要。
- 新しいダンス表現を作る事は、身体の運動可能性への挑戦。関節の動き、筋肉の動き、神経の働きを正確にシミュレートする人体モデルを仮想空間に作れれば、(人間が再現できる)新しい動きをAIに生成させることもできるのでは。
- 知覚を輔翼する感性。人間的なダンス。
- 何歳になっても踊れる身体でいるためのボディマネジメント・コンディショニング
- それぞれのジャンルのダンスを極めていくとで強化されるもの(メンタル面・フィジカル面のいずれも?)の情報を集約して整理する
- これから◯年間、定期的にダンスをした場合としなかった場合で身体にどのような差が現れるか(怪我・病気・筋肉など)の予測モデルができたら面白そう
- バイオメカニクスに基づいた動作の原理
- 少子高齢化、人生100年時代という社会環境において、ダンスがもたらす文化的習慣や価値を普及していくことは生涯学習の面でも大きいと考えます。豊かさの基準が「モノ(もの)」から「こと」へと推移している現在、物質の取得と同様に技術の習得プロセスをもっと平易な形で一般化する必要があると考えています。
- さまざまなグループダンスによる運動・表現の違いとその背後にある相互作用過程
- IT応用
- すでに皆さんが取り組まれていることですが、身体の知、創造のプロセスについて、実践内容の構造分析などを通して、プロパフォーマンスをライフパフォーマンスの知見として活用する研究。表現系スポーツの芸術性に関する研究など。
- 健康経営やwell-beingという文脈で、これからダンスなど文化的満足度みたいなものが大切になると思います。誰もが気軽にお金をかけずにダンスを学べるために、必要なインフラの研究が大切だと思います。
- 他者とのダンスを通した創造性の生成
- ダンスによる育める見通し力
- ダンスが技などの採点評価による「正解のあるスポーツ」に傾倒しすぎないように、表現の多様性を守れる研究(概念)
- 観てる側の研究
- ダンスに関わる知的財産について、著作権者の尊重とフェアユースを両立させるための研究
- 競技化がダンス特有のカルチャーを健全化・定型化してしまうことについての議論(ポールダンス 、フリースタイル全般)
- フリースタイルカルチャーにおける文化の借用が盗用にならないための議論(エクストリームマーシャルアーツをやってる人間として
- 日本伝統的な祭りの踊りの研究
- リアルとセオリーの両面からの研究
- ダンスだけでない業界横断的な研究
- 偏見を持たれがちなマイノリティや、文化資本にアクセスしにくい人がどのように活動できるか研究されてほしい
- 新体操も入れて下さい。
- 踊るという行為とウェルビーイングの研究、一般ウケしないアバンギャルドな踊りの価値
- 伝統文化との融合
- 社会と言われるとなんとも関連性があるのかわからないですが、ダンサー(プロやプロに匹敵する活動をしている)のキャリア形成に関する研究が充実することは、社会におけるダンサーの位置付けの向上等につながるかと考えています。個人的な興味でもありますが、ダンサーとしての経験値を社会に還元する(という言い方は感覚としてしっくりこないですが)ことの可能性を提示できると広がってくるものもあるのかなと思っています。
- ダンスのジャンル間や、他領域の芸術の知見との融合が必要だと思いました。動きと感情との関係の研究や、「間」の研究は、楽器演奏など他の芸術領域でも行われてそうです。
- 過去の人の精神性とつながれるような研究
- <テーマ②研究のお悩み> 他の研究者に聞いてみたい「研究に関する悩み」があれば、ご記入ください。
- データ収集の苦労
- ダンスの動きをモーションキャプチャで計測し、そこから実験刺激を作るために操作も行っているが、具体的な方法としてどのように全身運動を分析し、操作を行ったら良いかに行き詰まってしまう。
- マネタイズ
- 論文がなかなかアクセプトされません…
- ダンスが日本社会に与える影響と今後の立ち位置
- ディープラーニング等を使ったダンスの発展の場は、どのように設けられうるのでしょう?
- ペアダンスの動作ダイナミクスとコンタクトの関係性を定量的に分析したいが、具体的にどの方法が最適か
- ダンスに必要な筋肉
- 音楽でもそうですが、ダンスもジャンルにおける閉鎖性が強いと感じる場面が多いです。もっとジャンルを超えて、また既得権益(さらには所属・立場も)にこだわらず、交流を通して研究の敷居を下げる取り組みを活性化したいというのが現在の悩みです。
- トピックを限定しつつも、広くインプリケーションがある研究を実現する難しさ
- 実践研究を進めるための、コーディネートの仕方。
- chatgptを含め、AIに関して研究者はどのように学ばれていますか?また、どのようなことを学んで欲しいですか?
- リズムの乗りを客観的に見取る方法
- 聞いてから考えたい
- 研究費が少ない中での実験参加者(印象評価実験の評価者)の稼ぎ方が知りたいです。現状謝金を支払わずに2ヶ月間集めてやっと20数名でしたしかも手に入ったデータの4分の1が「ちゃんと評価してない判定」(satisficeチェックに引っかかった)で、むしろ謝金払わなくて良かったレベルではあるんですが…良い集め方を教えてください
- 武道とダンスとの類似性について
- ショーパブやキャバレー、ストリップ劇場など性風俗に近い現場の人々に入っていくにあたり、搾取にならないよう自分の権力性や持ってしまったスティグマを認識し続けるには何を心がけるべきでしょうか
- なかなか進みません…どうしたら良いですか?
- どうやって伝統舞踊と技術をつなげるか
- メインの仕事が研究に関する事業でない場合、どうやって研究を継続していくか。モチベーションの維持。
- 指標をどう見つけるか。