第5回日本ダンス研究会 開催報告

はじめに

第5回日本ダンス研究会が神戸大学滝川交流記念館にて開催された。今回は、研究会初の試みとして、対面とオンラインのハイブリット方式での開催とし、対面では30名、オンラインで最大28名の参加者が全国各地から集結した。7件の一般口頭発表と5件のポスター発表、河瀬諭氏(神戸学院大学)と関典子氏(神戸大学)による招待講演とパネルディスカッションが行われた。

発表および議論

口頭発表では、幅広い領域から7件の発表があり、「ダンス」というキーワードを通じて様々な知見が共有された。大野 俊尚氏(早稲田大学)らは、フリースタイルバスケットボール印象評価時の視線分配を分析し、「かっこよさ」評価と「うまさ」評価とで異なる可能性を報告した。松永真依氏(東京大学大学院)らは、バレエの回転動作を対象にアマチュアの経験者とプロの動作特性を細分化して分析し、熟練した回転動作の特徴を報告した。松岡(初田)響子氏(神戸大学)らは、ペアダンスを対象に一体感を喚起する個人間での協調の様相に着目し、主観的な一体感と動作特性の関連について報告した。小寺 博正氏(京都大学)は、ブレイキンのオリンピック種目化がもたらした社会的・文化的な影響について質問調査を行い、オリンピック前後のダンサー・非ダンサーの意識について報告した。笠井 津加佐氏(金沢大学)は限られた資料をもとに20世紀初頭の花街舞踊を復元するための「舞踊譜」の作成手法とその現状を報告した。渡邉 研斗氏(産業技術総合研究所)は歌詞とダンスモーションの関連度をフレーム単位で定量化し、歌詞に関係するダンスモーションを抽出するためのデータ分析手法を提案した。梶原 賢氏(電気通信大学大学院)は、ダンスの連続動作から単位動作である振り付けを自動で抽出し、定量的に比較・評価する手法において、学習時間を大幅に短縮し、ダンス動作の習熟度に影響する運動が抽出できることを報告した。

これらの口頭発表については、対面での議論だけではなく、Cosenseを用いたオンライン上での議論も活発に行われた。時間・場所の制約を受けることなく、ダンスジャンル・研究分野の異なる研究者間での意見交換が可能になった。

午後からの招待講演では、神戸学院大学の河瀬諭氏と神戸大学の関典子氏をお招きし、ご講演いただいた。河瀬氏には「音楽と身体の動き―グルーヴから社会的絆へ―」というテーマでご講演いただいた。グルーヴとは、体を動かしたくなる音楽とは何なのかということに焦点をおいた先行研究の紹介から、グルーヴのある音楽をどのように作り出すかということまで、さまざまな知見を共有いただいた。音楽に合わせて「一緒に」動く(ダンスをする)ことで向社会的行動が増えることにつながっており、ダンスは多くの人と効率的にコミュニケーションを図る手段の一つとして捉えられるという視点が印象的であった。また、関氏には「踊るキュレーターによるバレエ・リュス作品の再創造 ~「黒い箱」の象徴性と機能をめぐって ~」というテーマでご講演いただいた。「踊るキュレーター」でもある関氏が、薄井憲二バレエ・コレクションを紐解き、20世紀初頭に一世を風靡したバレエ・リュスの代表作をいかに「再創造」したのかという経緯を開示された。3つの作品で共通して重要な装置となった「黒い箱」の意図や効果についてご説明いただき、公演を見るだけでは計り知れない、創作プロセスを垣間見ることができた貴重な機会であった。招待講演後のパネルディスカッションでは、演者の河瀬氏、関氏に再度ご登壇いただき、領域の垣根を超えて、研究活動や実践活動に関する議論ができた。

ポスター発表では、研究成果をポスター形式で展示し、それについての質問や意見交換が行われた。ダンスに関する研究、およびダンスに類似する身体運動を研究対象とする5件の発表があり、時間を忘れるほど、活発な議論が展開された。

情報交換会には16名が参加し、研究会の熱量そのままに、至る所で熱い議論が交わされており、大変有意義な会となった。

おわりに

記念すべき第5回大会を神戸で開催できたこと、また沢山の方にご参加いただけたこと、終始建設的な議論が活発に展開されていたこと、大変嬉しく思います。今後も研究会を開催して参りますので、ご参加・ご発表いただけますと幸いです。

本研究会では随時PodcastやXによるダンス研究に関する情報発信を行っています。また論文を発表された際は日本ダンス研究会のSNSでも発信しますのでご連絡ください。

謝辞

最後に、今回の研究会において招待講演をお引き受けいただいた河瀬諭氏(神戸学院大学)、関典子氏(神戸大学)に心より感謝申し上げます。また、黒丸愛美氏(東京科学大学)、松岡(初田)響子氏(神戸大学)、大野俊尚氏(早稲田大学)、角田宣子氏(神戸大学)、平岡花音氏(神戸大学)、には会場準備、受付、撮影、そして研究発表に至るまで様々な面で研究会開催をサポートしていただきました。この場をかりて、改めて感謝申し上げます。

実行委員

幹事

河野 由(大東文化大学)
清水大地(神戸大学)
土田修平(お茶の水女子大学)
宮田紘平(東京大学)
中村まい(新潟産業大学)

サポートメンバー

大野俊尚 (早稲田大学)
黒丸愛美 (東京科学大学)
松岡(初田)響子 (神戸大学)